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女優のケイト・ブランシェットも含め、6人の俳優がボブ・ディランを演じる。とは言ってもディランの人生をそのまま再現するわけではなく、デビュー以前の彼の心象や、キリスト教に傾倒した時代、さらに彼の歌詞を象徴するビリー・ザ・キッドの世界など、6人が演じるのは、ボブ・ディランの「断面」。そこからひとりのアーティストの素顔を浮き上がらせようとするのが斬新で、このアプローチだけでも本作の意義はあると言っていい。
各パートにはディランにまつわる要素が散りばめられており、細かいネタまですべて発見するのは、コアなファンでなければ不可能なほど。6人の俳優のなかでは、モノクロで描かれるケイト・ブランシェットのパートが、ディランのアーティストとしての生活にフォーカスされているため、最も印象深い。しかし完成後、思いがけずに際立ったのは急逝したヒース・レジャーのパートで、彼のプライベートとダブる描写もあり、役の切実さが痛々しい感動につながることになった。「無意味な歌詞こそ崇高」というディランの思いが、なぜかヒース・レジャーの演技と重なってしまう。(斉藤博昭)
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